轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「どうして母さん···が、ここに?」
「それは、私が春日夫妻に頼んで檻の中から連れ出してもらったからよ」
悪役の成敗を終えた会場に残されたメンバーの中で、改めて異質な存在といえば、それは美代子の後ろで震えている鷹司アンナだろう。
アンナは昔で言う社長の妾的な存在。
いわば美代子の恋敵と言えるだろうが、アンナの肩を擦る美代子の眼差しは優しい。
「村瀬の会社の雲行きが怪しくなってきて、次に映二が狙うのはこのホテルか滋子の会社グローイングだと思ったわ。グローイングには千紘くんも関わっている。あの男は人の弱みに漬け込んで利益を貪るのが得意なの。だから、千紘くんの弱点とも言えるアンナさんをこちらで保護することにしたのよ。必要なら病院にも行かせたかったし」
ニコニコと笑う美代子に、嫉妬にかられる悪役貴婦人の陰はない。
「かつて私の父も映二に騙されて会社を買収されそうになったの。それを阻止するための条件が、業務提携と私との再婚。いわば時代遅れの政略結婚だったから私達二人の間には愛はないのよね。でもアンナさんは違うでしょ。ずっと映二がオランダに囲っているという女性のことが心配でならなかったの」
実の娘と大勢の前で、愛のない結婚を宣言する美代子もどうかと思うが、滋子は納得しているのか、大きく頷いていた。
「その人は、不倫してしまったと知って傷付き引き籠もってしまったと聞いたわ。その息子さんも同様。何とかして助けたいと思っている間に、千紘くんが日本に来ることになったの」
千紘が日本に来たいと言い出したタイミングと、美代子が支援を開始したいと考えたタイミングが重なったのは偶然だったという。
「だから私は、滋子に事情を全てを話して千紘くんをフォローしてもらえないかと頼んだの。滋子には酷な話だとは思ったけど、事情はどうあれ、滋子にとっては血を分けた兄には変わりないでしょ?顔も知らないのは理不尽だわ」
「父と母の間に見えない壁があったことは幼い頃からなんとなく気付いていたの。その理由を知った時は納得したし、アンナさんと千紘さんが被害者であることも理解した」
大学生になってから知ったこととはいえ、いわゆる婚外子が外国にいることを受け入れることは簡単ではなかっただろう。
滋子は強いな、と清乃は思った。
「千紘さんの乳兄弟である吏音から、彼のバックグラウンドに関する情報は簡単に手に入った。彼のイラストを活かすIT関係に伝手はあったから紹介すればよかっただけの話なんだけど、この際、私も興味のあったゲーム会社を立ち上げてみようと考えたのよね。千紘さんずっと渋ってたんだけど、キヨノンを餌にしたらすぐに食いついてくれたから助かったわ」
千紘と清乃を交互に見て笑う滋子は、本当に腹黒い。
傷付いてもただでは転ばないぞ、という意気込みが、元法律関係者であッタ過去を偲ばせる。
「千紘くんは少し初恋をこじらせてたようだけど、少しずつ前進はしているみたいだったから見守ることにしていたのよ。でも、お邪魔虫の映二が、滋子や千紘くんまで政略結婚の道具にしようと動き始めたじゃない?変なお嬢様も登場しちゃったし、纏めて成敗しないと大変なことになると思って今回行動を起こしたわけ」
なんと、あのお見合いモドキや記念パーティー、今回のイベント諸々のバックに滋子の母親である美代子がいたとは驚きの新事実である。
「映二は最近、資金繰りが怪しくなっできて、アンナさんへの仕送りが滞っていたにも関わらず、彼女の預金口座にお金が残っているのを見て、千紘くんが株で一財産築いていることを知ったの。モラハラ男の映二が、アンナさんを餌に千紘くんを脅してくることは簡単に想像できたわ」
二人の間に愛はないとはいえ『子供の一人もいないと体裁が悪い』と言って子作りを強要され滋子が生まれたという。
そんな映二のモラハラに耐えてきた美代子は、アンナの存在を知り、彼女の思い込みからくる自己嫌悪や引き篭もり生活からなんとか救い出したいと思っていた。
アンナは千紘に愛を抱かなかったわけではない。
愛するが故に、事実を知った千紘に嫌われたり無視されるのが怖かっただけなのである。
そんなの親としてはどうなのか、という議論はあるかと思うが、それを乗り越えられないことこそが、心を病んでいる証拠なのである。
実際、これまで春日夫妻にどんなに説得されても、頑なに囲われていたマンションを出ようとしなかったアンナだったが、千紘がアンナに仕送りを続けていることと、その財産を映二が狙っているという事実を知り、こうして勇気を出して檻の外に飛び出したのだ。
そこには息子への大きな愛があるからこその行動である。
「それは、私が春日夫妻に頼んで檻の中から連れ出してもらったからよ」
悪役の成敗を終えた会場に残されたメンバーの中で、改めて異質な存在といえば、それは美代子の後ろで震えている鷹司アンナだろう。
アンナは昔で言う社長の妾的な存在。
いわば美代子の恋敵と言えるだろうが、アンナの肩を擦る美代子の眼差しは優しい。
「村瀬の会社の雲行きが怪しくなってきて、次に映二が狙うのはこのホテルか滋子の会社グローイングだと思ったわ。グローイングには千紘くんも関わっている。あの男は人の弱みに漬け込んで利益を貪るのが得意なの。だから、千紘くんの弱点とも言えるアンナさんをこちらで保護することにしたのよ。必要なら病院にも行かせたかったし」
ニコニコと笑う美代子に、嫉妬にかられる悪役貴婦人の陰はない。
「かつて私の父も映二に騙されて会社を買収されそうになったの。それを阻止するための条件が、業務提携と私との再婚。いわば時代遅れの政略結婚だったから私達二人の間には愛はないのよね。でもアンナさんは違うでしょ。ずっと映二がオランダに囲っているという女性のことが心配でならなかったの」
実の娘と大勢の前で、愛のない結婚を宣言する美代子もどうかと思うが、滋子は納得しているのか、大きく頷いていた。
「その人は、不倫してしまったと知って傷付き引き籠もってしまったと聞いたわ。その息子さんも同様。何とかして助けたいと思っている間に、千紘くんが日本に来ることになったの」
千紘が日本に来たいと言い出したタイミングと、美代子が支援を開始したいと考えたタイミングが重なったのは偶然だったという。
「だから私は、滋子に事情を全てを話して千紘くんをフォローしてもらえないかと頼んだの。滋子には酷な話だとは思ったけど、事情はどうあれ、滋子にとっては血を分けた兄には変わりないでしょ?顔も知らないのは理不尽だわ」
「父と母の間に見えない壁があったことは幼い頃からなんとなく気付いていたの。その理由を知った時は納得したし、アンナさんと千紘さんが被害者であることも理解した」
大学生になってから知ったこととはいえ、いわゆる婚外子が外国にいることを受け入れることは簡単ではなかっただろう。
滋子は強いな、と清乃は思った。
「千紘さんの乳兄弟である吏音から、彼のバックグラウンドに関する情報は簡単に手に入った。彼のイラストを活かすIT関係に伝手はあったから紹介すればよかっただけの話なんだけど、この際、私も興味のあったゲーム会社を立ち上げてみようと考えたのよね。千紘さんずっと渋ってたんだけど、キヨノンを餌にしたらすぐに食いついてくれたから助かったわ」
千紘と清乃を交互に見て笑う滋子は、本当に腹黒い。
傷付いてもただでは転ばないぞ、という意気込みが、元法律関係者であッタ過去を偲ばせる。
「千紘くんは少し初恋をこじらせてたようだけど、少しずつ前進はしているみたいだったから見守ることにしていたのよ。でも、お邪魔虫の映二が、滋子や千紘くんまで政略結婚の道具にしようと動き始めたじゃない?変なお嬢様も登場しちゃったし、纏めて成敗しないと大変なことになると思って今回行動を起こしたわけ」
なんと、あのお見合いモドキや記念パーティー、今回のイベント諸々のバックに滋子の母親である美代子がいたとは驚きの新事実である。
「映二は最近、資金繰りが怪しくなっできて、アンナさんへの仕送りが滞っていたにも関わらず、彼女の預金口座にお金が残っているのを見て、千紘くんが株で一財産築いていることを知ったの。モラハラ男の映二が、アンナさんを餌に千紘くんを脅してくることは簡単に想像できたわ」
二人の間に愛はないとはいえ『子供の一人もいないと体裁が悪い』と言って子作りを強要され滋子が生まれたという。
そんな映二のモラハラに耐えてきた美代子は、アンナの存在を知り、彼女の思い込みからくる自己嫌悪や引き篭もり生活からなんとか救い出したいと思っていた。
アンナは千紘に愛を抱かなかったわけではない。
愛するが故に、事実を知った千紘に嫌われたり無視されるのが怖かっただけなのである。
そんなの親としてはどうなのか、という議論はあるかと思うが、それを乗り越えられないことこそが、心を病んでいる証拠なのである。
実際、これまで春日夫妻にどんなに説得されても、頑なに囲われていたマンションを出ようとしなかったアンナだったが、千紘がアンナに仕送りを続けていることと、その財産を映二が狙っているという事実を知り、こうして勇気を出して檻の外に飛び出したのだ。
そこには息子への大きな愛があるからこその行動である。