轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「全ての黒幕は滋子だと思ってたけど、美代子社長がラスボスだったなんて予想外だった」

「内心ヒヤヒヤしてたけど、全てが丸くおさまりそうでようやく安心したわ。まあ、拓夢くんが傍で助けてくれていたから失敗はしないだろうと信じてはいたけど。ねえ、拓夢くん」

何気に惚気を入れてくる滋子は、やはり新婚だから浮かれている面も当然あるのだろう。

ニコニコと拓夢の腕に抱きついては、甘える姿が何とも可愛かった。

「母さんまで助け出してくれて、感謝している。すまなかった」

そんな新婚さんの甘い空気を読まない千紘は、お構いなしに真面目モードで謝罪をしれてくる。

「ヘタレな千紘を、これ以上見るに見かねただけだよ。これまではきっかけの掴み方を知らなかっただけだ。チャンスの神様は前髪しかないって言うだろ?ファンタジー小説引用あるあるだけど、これからはお前自身でもそれを捕まえる努力をするんだ」

熱血教師さながらに熱く語る拓夢は、やはり頼れる先輩だ。

タイプの違うテンプレ成り上がりイケメン。推せる。

「でも、一番嬉しいのは“キヨノンゲットだぜ”でしょ?この子はレアポケ○ンよりも捕獲しづらい案件だったんだから、そこは感謝してもらわなきゃ」

ここに至ってもレアポケ○ン扱い。

清乃は自分の立ち位置がよくわからなくて苦笑した。

「安心しろ。俺は自分のものは大切にする。絶対に他人に譲ったりしない」

漂ってくるヤンデレ臭に、映二と同じ香りがして身の危険を感じる。

「束縛と溺愛は違うのよ。そこんとこ宜しく」

動き出した千紘の感情は、まだまだ発展途上だ。

敷かれたレールの上を歩いてきたようでも、そこには自分で選んできた物がいくつも存在するはずだ。

テンプレという、お膳立てされたシナリオから動き出した二人の未来だが、先行きは明るいと信じたい。

そこには選択するという“希望の轍”もあるだろう。

三人は、陰キャを卒業しきれない千紘を囲んで、遅くまで将来を語り合った。

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