轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
続くwinding road
「お前を一生愛することはない」

「···」

「な〜んて、俺が言うと思うかこの愚民ども」

「···モラハラ発言は良くない」

休日の微睡みたくなる、そんな時間。

清乃と千紘は、アップデート予定のゲームの新キャラクターを考えていた。

「俺様イケメン武将は既にいるでしょ?それに隠しキャラなら、見下し冷徹キャラは定番なんだよね」

そんな清乃の言葉に、千紘は決して頷こうとしない。

「俺は自分の生み出すキャラを悪役にはしたくないんだ」

「あら、初めて会ったイケメンの方のちぃちゃんは十分悪役キャラだったよ?」

「あれは、滋子社長に唆されて苦肉の策で盛って作ったキャラだから本物じゃない。きよのんの気を引きたかっただけだ」

パソコンのタブレットに向き合っていた千紘は、悲しげな顔を清乃に向けて、その肩に自分の頭をのせた。 

盛って作ったあの頃のキャラとは大違いで、可愛さが満点である。

「でもね、どんなヒールにも歴史があって変えられる未来があるわけでしょ?それなら私達のヒールは、誰にも負けないような魅力的な設定にして、どこかに救いを残す物語にすればいいのよ」

「そうだな。2次元だからこその救いはある」

そう言って、再びパソコンとタブレットに向かう千紘は、清乃の尊敬する狼犬《ウルハイ》そのものだった。

「格好いい」

「お世辞はいいから。ほら、そこの肩の線、左に歪んでいるぞ」

「わわ、ホントだ。ウルハイパイセンの指摘が半端ない」

「仕事に妥協は許さない」

「御意に」

尊敬すべき尊師で、愛すべき想い人。

望んで欲してもらった立場とはいえ、千紘の隣は、清乃にとってこれ以上の至福の居場所はない。

千紘の母であるアンナも少しずつ心を取り戻し、今では清乃の母親の経営する花屋でバイトも始めた。

そして、今、千紘のマンションには彼女が育てたというサルビアの鉢植えが飾られている。

花言葉は“家族愛”だ。

「ねえ、ちぃちゃん。今、幸せ?」

「ああ、清乃がそばにいてくれる、それだけで全てが前向きになれるよ。清乃と出会ってから、毎日が幸せだ」

「ずっと、ずっとそばにいて、私と一緒に絵を描いて歳をとろうね」

「ああ。清乃、愛してる」

「はい、存じ上げております」

“愛することはない”という言葉から始まった、二人の作られた出会い。

こんな結末なら、騙されてみるのも悪くない。

二人は、パソコンのデスクトップの中からゲームの新キャラが見つめる前で、抱き合いながら微笑みを交わすのだった。

fin

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