轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
夜が明けても、外は吹雪。全国津々浦々で交通機関はストップしているようだ(スマホ情報)。

中には帰宅難民も発生していて、泊まる宿を確保できている清乃は、幸運と言えないこともないだろう。

まあ、昼間のうちに帰宅していれば、三連休だったのだから、自宅でじっとしていれば済んだ話、ではある。

生憎、清乃は、寮として貸し出されている会社近くのマンションで1人暮らしをしていたので、一晩自宅に帰らなくても不審に思う者はいない。

とはいえ、そこはうら若き女性である清乃。

厳しい環境下での生活能力については、家族も一応は心配しているはずだ。

スマホを見ると、やはり、母親から寒波による帰宅難民の可能性や寮内籠城生活を心配するSNSのメッセージがツラツラと連なっていた。

清乃の家族は両親と兄の4人。

母と違って、父と兄は基本的に清乃を縛ることなく見守る姿勢を保っている。

“まさか、私が会ったばかりの男性と、1つのベッドを共有しているとは思ってもいないだろうけど”

仕事までも二次元に囲まれた、根っからの夢女子と思われている清乃。

恋愛に興味がないだけで、決して二次元の男に傾倒する夢女子ではないのだが、そんな清乃が男性と一夜を共にしたなんて、リア充な話題、両親と兄が聞いても信じないだろうな、と彼女は思った。

清乃はそっと、スマホの画面を消すと、隣に眠るタカシをジッと見つめる。

日本人離れした美しい顔立ち。

睫毛は長く、サラサラの髪は薄茶色だ。

年は、清乃よりも少し上だろうか?

今は閉じられて見えないが、虹彩もかなり薄いブラウンで、見つめると吸い込まれそうな黄金糖のように見えた。

二次元で言えばドストライクなイケメン。

そんな清乃の好みを知っていたから、滋子は、ダメ元で清乃とタカシの縁を繋ごうとしたのでは、と清乃は思い至った。

それなのに、そんな滋子の好意を無銭飲食、更には食後の寝落ちといった失態で、無にしてしまった。 

“できるだけ速やかにお肉の代金支払いと料理長への謝罪を済ませなければ”

その2つを心に誓い、清乃は再度、タカシの腕の中からの脱出を試みるのだった。

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