素直になれない私たち

「わりい、間に合わなかった」


「何が?」


「さっき加藤から翔平に『裏口から帰るように伝えろ』って
メッセきたから追っかけてきたんだけど、こういうことか」


「うん、モトカレにされてる」


翔平に馴れ馴れしく語りかける河野さんと、河野さんの話を
真に受けて盛り上がる女子たちの様子を実際に目の前にすると
イラっとしているのが顔に出てしまいそうになる。遅れて外に
出てきた晴夏がそっとそんな私の横についてくれた。

そんな時だった。


「あのさ、」


ずっと黙っていた翔平が口を開いた。


「俺はあんたの名前も知らないし、付き合ってた覚えもない」


限りなく感情を押し殺したような、でも隠しきれない怒りも
見える、そんな声で翔平が続ける。



「初めてのキスは、俺はちゃんと好きな子としてる」



あんたとのことはただの事故だ、そういって翔平は河野さん
たちを黙らせた。それを聞いた河野さんは目を逸らして黙り
込み、周りの友人たちはどういうこと、といってざわついて
いる。



2年前は一度も聞けなかった『好き』という言葉。
そして『好きな子』という現在進行形の言葉。
初めて、翔平の気持ちを聞けた気がした。


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