素直になれない私たち
夏休みに入ってからも、私たちは多くの時間をみんなと一緒に過ごした。
誰かの家に集まったり、近所の神社のお祭りに出向いたり、用事がないときは
なぜか学校に集まって他愛のない話をして盛り上がった。私の横にはいつも
翔平がいて、いつのまにかそれが当たり前になっていた。
次の土曜日に予定されていた花火大会の話になったときも、みんなでわいわい
やってる途中で突然隣りにいる翔平からラインが届いた。
『土曜日、家まで迎えに行く』
みんながいる場所で2人だけの会話。
まるで付き合っていることを秘密にしているカップルみたいで、なんだか
悪いことをしているような気持ちになった。
『わかりました』
努めてさりげなく返信したつもりがなぜか敬語になってしまった。
案の定翔平は私からの返信を見て誰にも気づかれないよう下を向いて
笑っていた。そんな翔平を見て私も少し笑ってしまった。
花火大会の夜は、翔平が私の家まで自転車で迎えに来てくれた。
少し距離はあったけど、会場近くの公園に自転車をおいて、そこから
2人で歩いて花火大会へ向かった。出店が立ち並ぶ1本奥の通りに入ると
すでに大勢の人が集まっていて、少しでも目を離すと翔平を見失って
しまいそうなくらい混みあっていた。そんな自覚があるのに足を踏まれて
一瞬足元を見てしまい、もう一度顔を上げると翔平の姿が見えなくなって
いた。