素直になれない私たち
「うそ...こんなに早く見失う?」
人波に押されて前に進みながら必死に周りを見て翔平を探していると、
『あかり!』と呼ぶ声がして、前方の出店が途切れたところで待つ翔平の
ところに駆け寄った。
「後ろにいなくてマジ焦った」
行こう、と今度は私の手を引いて翔平がまた歩き始めた。
手を繋いだのはあの準決勝の時以来で、今回は横並びではなく前後だからか
指先を軽く絡めただけだったけど、それでもまだ慣れない私にとっては緊張
する行為だった。
出店のエリアを抜けて座れる場所を見つけ、やっと一息つくと、花火が上がる
前に何か買ってくる、といって翔平が立ち上がった。一人で待っている間、
数人のチャラ男に声をかけられては『連れがいるので』といって追い払い、
翔平を待った。でも3人目の男は連れがいるっていっているのに平然と隣りに
座ってきて、肩に腕を回してきそうだったので思わず右手をグーにした瞬間、
その男の腕が私の体から遠ざかった。
「連れですがなにか?」
かき氷を2つ持って戻ってきた翔平が、男の目の前に立って上から見下ろして
凄んだ。
チッ、と聞こえるように舌打ちしてその男はいなくなり、間に合ってよかった、
と翔平がいった。
「あと少し遅かったらあかりが殴ってたろ」
「そんなことするわけないじゃん」
「じゃあその右手は何?」
うっかりグーに握ったままの私の右手を見て翔平が笑った。
私は慌てて右手を開き、翔平が買ってきてくれたイチゴのかき氷を受け取った。
かき氷を食べ終わったのと同時に花火が打ち上がり始め、私たちはしばらくの間
『わー』とか『おー』とかいいながら同じ方向を向いて暗い空に咲く花火を見て
いた。
終盤に差し掛かり、この日一番大きな花火が大きな音と振動とともに打ち上が
った。
空いっぱいに開いた菊の花がパラパラという音と一緒に散らばっていくのを、
ほぼ真上を見上げて見ていた。
私はその時、無意識に翔平のシャツをつかんでいた。あかり、と名前を呼ばれて
私は無防備な状態で翔平のほうを向いた。