素直になれない私たち

ほんの一瞬だった。

振り向いた瞬間、翔平の顔がすぐ近くにあって、私は気づいたら目を閉じて
いた。
ほんの少しだけ、唇に柔らかい感触があって、それが離れてからどのくらいで
目を開けたらいいのかな、なんてことを考えていた。
ゆっくり目を開けると、翔平はこの数秒間のことがなかったかのように空に散ら
ばる花火を見上げていた。でも翔平の耳が赤くなっていることに気づいて、あら
ためて翔平とキスをしたんだ、と実感した。


最後の花火が打ち上がって終了のアナウンスが流れ、人々は一斉に動き出した。
翔平は立ち上がると、当たり前のように私の手を取って歩き始めた。
でもやっぱり耳が赤いままで、恥ずかしさと戦って頑張ってくれているんだな、
と思うとすごく嬉しくなった。


私たちは家の方向が同じなので、みんなで遊んだ帰りはたいてい怪しまれずに
2人で帰ることができた。誰も後ろから見ていないことを確認して手を繋ぎ、
翔平はいつも私を家まで送ってくれて、別れ際にキスをして帰っていくように
なった。キスをするとき、翔平はいつも私の髪をかき分けて大きな手で首の
後ろを触るクセがあった。無意識なのか、時々親指が私の耳に触れることが
あって、その度に私は体温が上がるような思いをしていたことに果たして彼は
気づいていたのだろうか。
普段生活する中で、自分の首元で他人の体温を感じることなどなかったから、
それだけで何か正しくないことをしているような気分になった。



私は、翔平に夢中だった。


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