素直になれない私たち
距離感
4月の後半にもなるとクラスメイトの名前と顔も一致するようになり、誰と
誰が付き合っているとかいう話も(主に晴夏から)入ってきた。翔平も初期の
ころに比べると女子とも話すようにはなっていたけど、相変わらず連絡先の
交換には応じていないようだった(南談)。
私と翔平は、特に不自然な感じになることもなく普通にクラスメイトとして
過ごすことができていた。
以前と変わったことといえば下の名前で呼び合わなくなった、ということ
ぐらいだ。私が水上、と呼んだことで、翔平も私に合わせて私のことを今は
三浦、と苗字で読んでいる。正直今更ながら違和感はあるけれど、中学時代
あまり付き合いがなかった、という設定を作り上げてしまったのは自分なので、
まあしょうがない。
「あれ、翔平は?隣のクラスのヤツが辞書貸してっていってんだけど」
「さっきかわいい1年生に呼び出されて出ていきましたー」
「は?またかよ」
しばらくすると翔平は何事もなかったかのように戻ってきて、辞書?いいよ、
といって南に手渡すとそのまま席に着いた。早速南と晴夏が冷やかし始める。
「連絡先聞かれただけだよ」
「あーそれまた塩対応のやつ」
「なんで知り合いでもないのに連絡先教える必要あるんだよ」
周りで聞き耳を立てている女子たちはあからさまにほっとしているようだ。
きっと翔平には『私たち』以外の例外を作ってほしくないのだと思う。
「でも翔平安心しなよ、あかりも似たようなもんだから」
「ちょっと、晴夏」
「誰かがあかりの連絡先を他校生に教えちゃったとき、本気で怒ってたもんね」
「知らない人から連絡もらっても返事のしようがないじゃん」
「そこから始まる恋ってのもあるかもしんないのに、もったいねーな。君たち、
新しい出会いを求める気はサラサラないのかい?」
『ない』
声が揃って、翔平と顔を見合わせる。私たちは思わず吹き出してしまった。
2人で顔を合わせて笑いあうなんて久しぶりすぎて、でも私が知っている笑顔と
同じだったからちょっと嬉しかった。