素直になれない私たち

その日の午後、お昼ご飯を食べ終わって一足先に教室に戻ると、後ろの入口の
手前で何かに気づき足を止めた。
南の席の足元の辺りで動く黒い影。アレはもしかして、Gから始まるアイツでは
ないだろうか...。教室の中はまだ前の方に数人が戻っている程度で、誰もこの
黒いヤツには気づいていない。


「何してんの」


顔を上げると翔平が戻ってきていた。私が黙って黒い影の方向を指差すと、
翔平は何、といいながら少し目を細めて私が指差した方向を見る。


「あっ」


私は、ゆっくりと翔平の後ろに隠れるように移動して、背中にそっと両手を
添える。


「俺もアレはダメだってわかってるだろ」


うん、わかってる。中学の頃もそうだった。グラウンドにアレが出た時、
翔平は私と一緒に逃げた。アレだけはダメなんだ、と繰り返していたのを
思い出す。
だけどごめん翔平、私もダメなんだ。


「わかってるから退治してなんていわないよ、でもせめて飛んできたとき用の
壁がないと安心できない」


「飛んでくるとかいうな、ていうか俺を壁に使うな」


「何イチャイチャしてんの?」


お互いの体を盾にしようと押し合っていたら、後から教室に戻ってきた晴夏が
楽しそうに声をかけてきた。アレ、と私が指差した瞬間、その黒い物体は飛び
上がって窓の外へと消えていった。
お互いの腕を掴んだまま、私と翔平はほっと一息ついた。と同時に5時間目の
始まりを知らせるチャイムが鳴って、何事もなかったかのように私たちはそれ
ぞれの席に戻った。


「よくわかんないけど、翔平とも仲良くなれたようでなにより」


「もー、それどころじゃなかったよ、寿命が縮んだ」


「正直気になってたんだよね、あかりと翔平が一緒にいるところあんまり
見たことなかったからさ」


もし本当は気が合わないのに自分や南との付き合いで無理して一緒にいる
とかだったらどうしようって思ってたんだ、と晴夏にいわれてはっとした。
友達に心配かけていたということに気づき、それまでの自分の態度を反省
するしかなかった。


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