素直になれない私たち

「あかり、何してんの?お前なんか不審者みたいだぞ」


声を掛けてきたのは3年の谷口先輩たちだ。先輩たちは去年から私や晴夏を
気にかけてくれている。晴夏は同中の先輩ということでもともと知り合い
だったのだが、私は1年の時にちょっとした事件があり、それ以来仲良く
してもらっている。


「自分の席にお客さんが来てるみたいで」


「んなもんどかせばいいじゃん。お前の席なんだろ」


「先輩じゃないんだから、そんなことできません」


どういう意味だよ、と笑いながら谷口先輩は私の頭をわしゃわしゃと
撫でた。同時にチャイムが鳴って、先輩たちもあの子もそれぞれ自分
たちの居場所へと戻り始める。


「南、三浦と話してるの誰?」


「ん?あー3年の谷口さんじゃね」


「...ふーん」


席に戻ると翔平が一言『ごめん』といった。大丈夫、といって座った
イスはまだ少し温もりが残っていた。あの子に存在をアピールされている
ような気がして、少しだけもやっとした。





次の日、肩が凝って休憩時間に席を立って背伸びをしようしたら、後ろから
翔平に左腕をつかまれた。


「もし急ぎの用事じゃないなら、このままここにいてくれない?」


急ぎもなにも背伸びしようと思っただけだからどこにも行かないよ、と
いうと、翔平は安堵した表情で助かる、といった。思い切り背伸びをすると
バキバキ、と周りにも聞こえるような音がして、それを聞いた翔平はまた
笑った。


「相変わらず運動してないだろ」


「余計な事いうとどっか行っちゃうよ」


『あの子対策』なのはわかっていた。私がいるとあの子が来ない、という
ことに翔平も気づいているのだろう。教室の後ろのドアの向こうにあの子の
姿が見えたけど、案の定中には入ってこなかった。今の私は完全に翔平の
虫除けだ。

この日から私は休憩時間も翔平と一緒に過ごすことが多くなった。


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