素直になれない私たち
入室してから30分ほどが経過し、少しずつ周りの子たちとも話が
できるようになった。同じ曲を一緒に歌ったり、好きなアーティストは
誰か、なんて話をしたり。中にはもう同じクラスの誰が気になる、
なんて話も飛び出して、女子たちは盛り上がっていた。
そんな時だった。
「三浦さーん」
ドアの近くにいた男子から名前を呼ばれ顔を上げると、ドアの隙間
からうちの学校の制服を着てるっぽい男の人の姿が見えた。
呼ばれてるよ、といわれて部屋の外に出ると、上級生らしき男子が
そこに待っていた。
「えーと、1年の三浦さん?」
私は晴夏と違ってこの学校に親しい先輩がいるわけではないので、
普通に考えると先輩に声を掛けられる理由はない。入学早々悪目立ち
した覚えもない(はず)。
「...はい」
明らかに訝し気な私の様子など気にするそぶりもなく、その人は
こっちこっち、と私の背中を押して奥の方にある少人数用の部屋の
前まで連れていかれた。
「あの、何の用ですか」
「大丈夫、アイツ今彼女いないから」
全く話がかみ合わない。
アイツって誰のこと?
奥の部屋のドアを開けて、スマホで誰かに『当たり、かわいい
じゃん』と話す声が聞こえた。何が当たりでかわいいの?
訳が分からないまま、私はあっという間に奥の空き部屋に押し込ま
れてしまった。