素直になれない私たち
誰もいない部屋で立ちつくすこと数十秒。
ドアが開いて入ってきたのは、またしても上級生と思われる同じ学校の
制服を着た背の高い男子。その人は私をソファに座らせると自分も続いて
腰を下ろした。
「...あの」
「ん?」
そういってほほ笑むその人を見て「あ、この人カッコいいかも」思って
しまったのは今でも内緒だ。先輩にはもちろんのこと、晴夏にもいって
いない。
でもいくらカッコいいとはいえ謎の上級生とカラオケの小部屋で2人きり。
固まっている私をよそにその上級生が先に動いた。
「俺今ちょうど彼女いないから、付き合ってみる?」
え?と答えるのと同時に私は肩を抱かれていることに気づいた。
頭が追い付かない。今更ながら、何でこんなことになってるんだっけ?
「1年の三浦さんでしょ?」
肩を抱かれている分さっきよりも顔がぐっと近くにあって、うん、と
小さく頷くことしかできない。
「じゃあ」
いいよね、とその上級生がいうのと同時にソファに押し倒され、キス
されそうになるのを必死に押し返す。いいよねじゃないよ、何いって
るのこの人。
「ちょっと待って」
その人は私が抵抗するとは思っていなかったようで、自分だけ体を
起こすと少し驚いたような様子で一呼吸おいた。
「...俺のこと好きなんだよね?」
私は全力で首を振る。
「1年B組の三浦リコちゃん、でしょ?」
「...1年A組、三浦あかり、です」
「えっ」
しばらくの間、気まずい空気が流れたのはいうまでもない。