素直になれない私たち
「さあ、全部話してもらおうか」
南のファーストキスこじらせ事件(?)が起こった週の金曜日、さっそく
晴夏による取り調べが私の家で行われることになった。
「だからね、前にも話したと思うけど、中3の時に大失恋をしたんですよ」
去年、他校男子との交流会(合コンともいう)へのお誘いを断ったときに
まだあの時の失恋から立ち直っておらず、誰とも付き合う気がないという
ことを晴夏には話していた。もちろん、翔平の名前はなしで。
「その人とね、うん、まあ、はい」
「なんだ、ちゃんと彼氏いたんじゃん」
男と付き合うとかまだ興味ないのかな、って思ってちょっと心配してた
んだよね、という晴夏に対して彼氏...?と呟いて首をかしげる私。
「えっどういうこと、その人と付き合ってたんじゃないの」
「好きとか付き合おうとか、いってないしいわれてもない」
これは本当のことだ。お互いにそういう気持ちを言葉で表したことは
なかった。恋愛初心者の私にとって、あの頃の翔平の存在は手を繋いだ
時点で友達以上になって、初めてキスをした時に特別な存在になった。
でも翔平にとっての私がどうだったのかはわからないまま、私たちは
離れてしまった。
目の前で一人突然頭を抱える私を見て、晴夏が不安そうに覗き込む。
「あかり、大丈夫...?」
「彼氏...だったのかな」
「あのね、世の中のカップルみんながこの日から付き合い始めたって
いう記念日があるわけじゃないんだよ。気づいたら一緒にいるのが
当たり前になってた、とかね。だから、あかりとその彼もそういう
感じだったんじゃないの?」
子供に言い聞かせるように優しくゆっくりと語りかける晴夏の言葉を
聞いて、自分を納得させるように私は何度も頷いた。
「だいたい、好きじゃなきゃキスなんかしないでしょ」
谷口先輩に押し倒されたときみたいに全力で拒否るでしょ、といわれ、
確かに、と思わず同意した。