素直になれない私たち
「で、なんでその人と別れちゃったの。失恋ってことは、あかりが振ら
れたの?」
「その話は思い出したくもないのでまたいつか」
「あかりー、お茶の用意できたから取りに来て」
母に呼ばれて私がナイスタイミング、思い立ち上がろうとすると、
晴夏が私が行くから話整理しといて、といって私を制止し、代わりに
下へ降りていった。
「あら晴夏ちゃん、わざわざごめんね」
あかりったらお客様にこんなことさせて、といいながら母はケーキと
紅茶を晴夏に渡した。
「おばさん、ひとつ聞いてもいいですか?」
「何、どうしたの?」
「中学のとき、あかりって彼氏いました?」
「彼氏だったかどうかはわからないけど、好きな人はいたみたいね。
花火大会の日にあかりのこと迎えにきてくれたことがあって。うん、
けっこうカッコいい男の子だったわ」
だけど2学期の始業式の日、あの子泣きながら帰ってきたの。
しばらく部屋にこもってて、ようやく出てきたと思ったら泣き腫ら
した顔してスマホ出して『番号変えたい』って。何があったのか
聞こうとしたんだけどね、目の前で涙流してるあの子見てたらもう
それ以上のことは聞けなかったわね。あの日以来あの男の子が家に
来ることはなかったから、たぶん涙の理由は彼じゃないかな。
「喋りすぎちゃった。晴夏ちゃん、聞かなかったことにしてね。
あかりに怒られちゃうわ」
「もちろんです、お茶ありがとうございます」
今思えば、晴夏が部屋に戻るまで5分くらいかかっていたけれど、
その時の私は晴夏からの尋問をどうかわそうか考えるのに夢中で、
晴夏が母からあの日のことを聞き出していたなんて思わなかった。