素直になれない私たち
その頃、晴夏が私と翔平の関係性に気づいたことなんて知る由もない
私は、帰り道の途中で翔平とドラッグストアに立ち寄っていた。晴夏
たちと別れてすぐに弟の航平くんから連絡が入って、買い物を頼まれた
のだ。
「航平くんって3つ下だっけ」
うん、と頷きながら翔平はアイシングスプレーを探している。翔平と
同じく西中の野球部に入っている航平くんが練習中に足に打球を受けて
しまい、ちょうど切らしていたアイシングスプレーを買っといて、と
連絡が入ったらしい。なんで俺が、と口ではいいながらも真剣にどれが
いいのかと吟味している。
会計を終えて店を出ると、そこで別れるはずが翔平は当たり前のように
私の家の方向に一緒に歩き出した。まだ明るいし送ってくれなくても
いいよ、といったら翔平は別にヒマだからいいよ、といってそのまま
歩き続ける。
「そういえば、2年前の中体連準決勝にまっつんも来てたんだってね」
「あー、なんかそんなこといってたな」
「翔平に声掛けたけど全然覚えてなかったって嘆いてた」
「声掛けられた覚えなんてないよ」
「グラウンドから出たところで囲まれてたじゃん」
私にそういわれてもう一度思い出そうと眉間にしわを寄せながら
考え込む翔平。でもしばらく考えても出てこなかったようで、
諦めたようにあーダメだ、といった。
「俺、あの時あかりを探してたってことしか覚えてない」
翔平のことだから思いついたことをそのまま言葉にしただけなん
だと思うけど、私は一瞬思わず翔平の顔を見上げて、またすぐに
下を向いた。何それ、と返すのがやっとだった。