素直になれない私たち
宣戦布告
「嫌な季節がやってきたー」
5月の半ばを過ぎると、体育の授業で陸上種目のタイムや記録をやたら
計測するようになる。我が緑ヶ丘高では、陸上競技を中心としたものと
球技に分けて体育祭が2回開催されることになっていて、特に1回目は
クラスの結束を高める(訳:仲良くなる)ことが主な目的になっている。
梅雨に入る前の6月中旬に行われる体育祭の出場種目を決める目安にする
ためということもあり、けっこうなハードスケジュールで複数の種目に
ついて計測が行われる。ちなみに今日の授業では、男子が50メートル走、
女子がハードル。私が一番苦手としている種目だ。
「ハードルってさ、ハンデとかないの」
私は口を尖らせながら力説する。
「だって163センチの晴夏と155センチもない私が同じ高さのハードル
飛ぶっておかしいでしょ」
「それハードルって競技考えた人にクレームしてくれる?」
晴夏にあっさり流され、私はすっかり不機嫌だ。
順番を待つ間、さりげなく男子のほうを見てみると、ちょうど翔平が
スタートしたところだった。2人1組で走り出して2人ともほぼ同時に
ゴールした。翔平の足の速さを知っている私からすると、無難なタイ
ムが出るように調整して走っているように見えた。速いタイムを出して
しまうと、最終種目のリレーに借り出されてしまうからだろう。
ダントツの速さで駆け抜ける姿も久しぶりに見てみたかったな、と思い
ながら、これからハードルと戦わなければならない自分の現実に戻った。