素直になれない私たち
「保健室に連れていきます」
翔平がぼろぼろの私を抱き上げて、校舎のほうへ向かって歩き始める。
その後ろ姿を見ている女の子たちの歓声とも悲鳴ともとれるような声が
聞こえてくる。
「ちゃんとつかまってないと落ちるぞ」
私は勢いで翔平の首の後ろに両手を回してしがみついた。グラウンド
だけでなく、校舎の中からも多くの視線が集まっているのを感じる。
「派手につっこんだなー」
「...痛かった」
「うん」
「恥ずかしかった」
「うん」
「ごめんね」
「ん?」
「今、恥ずかしい思いさせてる」
「なんだそれ」
ここで笑ってくれる翔平の優しさが身に染みる。私はそのまま翔平に
抱きかかえられて校舎の中へ入った。
そしてその様子は3階にいる谷口先輩たちにも見られていた。
「谷口、お前のあかりちゃんがイケメンにお姫様だっこされてるぞ」
「は?」
「さっきのガシャーンってスゲー音したの、あれあかりがハードルに
つっこんだ音だったんだな」
窓側から2列目に座っていた谷口先輩が授業中にもかかわらず身を乗り
出して窓の外を覗き込み、私と翔平の姿を確認すると、隣の席にいた
女の先輩がいった。
「あー2年の水上くんじゃん、こないだA組のユキナちゃんが振られた
っていってたよ」
「...ふーん」
この時、谷口先輩ははっきりと翔平の存在を認識した。