素直になれない私たち
「痛!」
保健室に着くと扉に『不在』のプレートがかかっていて、誰もいなかった。
翔平は私をベッドの上に座らせて、適当に引き出しを開けながら消毒薬や
湿布を探し出し、手際よく処置を始める。
まずは擦りむいた右の手のひらに消毒薬が染み込んだ脱脂綿をあてられ、
私は思わず声を上げてしまった。
「ヒザは?」
大丈夫、といって破れている膝のあたりを手で隠すと、着替えたらどうせ
わかるよ、といわれ、観念して右足のジャージを捲り上げた。血が滲んだ
膝にも容赦なく襲い掛かる消毒薬に私は半泣き状態だ。
膝には軟膏を塗ってガーゼをあててテープで止め、手のひらはひとまず
消毒だけで様子を見ることにした。
さすがよく擦り傷を作っていた元野球部、簡単な処置はお手の物だ。
「今日、本気で走ってなかったよね」
「そうでもないよ、もうずいぶん走ってないしあんなもんだよ」
ふーん、と不満そうに正面から覗き込む私を避けるように翔平が私の左
足首の様子を確認していると、保健の先生が戻ってきてその後の応急処
置をしてくれた。