素直になれない私たち
「家まで送ってくよ。その足じゃ歩くの大変だろ」
ホームルームが終わると、翔平が真っ先に話しかけてきた。
「えっそこまでは申し訳ないからいいよ、お母さんにタクシーで
帰っていいかラインしてみるから。ありがとね」
そのやりとりを晴夏がニヤニヤしながら見ている。そんな晴夏と
目が合って、翔平はバツが悪そうに視線をそらした。
その後お母さんにラインするとすぐに返事が返ってきた。
「タクシーOKだって」
じゃあ学校出たところまで一緒に行こ、と晴夏がいって立ち上がると、
晴夏は私に見えないポジションで翔平についてくるように手招きを
した。翔平はどうやらもともと私を送って帰るつもりだったようで、
晴夏に仕切られているのが少し不満げな様子だったが、私の横に
立ってつかまるようにと左腕を差し出した。
その腕を取ろうとした、そのときだった。
「あかり、大丈夫かー?」
谷口先輩と純希先輩、他にも遊んだことがある3年の先輩たちが教室に
やってきた。私の膝を見てあーあ、派手にやったな、と話している。
「なんで知ってるんですか」
「そりゃあんな大きな音立ててハードルに突っ込んでたら2階の教室
にも丸聞こえだよ」
純希先輩が笑いながらいう。でも心配してくれているのもわかる。
チャラいけど優しい先輩たちだ。
「あかり、谷口が送ってくってさ」
「あっ本当に大丈夫です、お母さんからタクシーで帰っていいって
いわれてるから。ご心配おかけしました」
「いーからほら、行くぞ」
そういって谷口先輩は私のかばんを持つと、ついて来いといわん
ばかりに歩き始めた。