素直になれない私たち
ものすごく見られてる、気がする。
ママチャリに乗っている谷口先輩、というだけでも相当珍しいのに、
謎の女子(=私のこと!)と二人乗りしているとなれば確かにガン見
したくもなるか。だんだん学校から離れて他校の制服を着た人とすれ
違うようになっても相変わらず見られているような気がするのは、
きっと谷口先輩の知名度(いろんな意味で)と深く関わりがあるのだ
と思う。
「あかり、次の信号右でいいんだっけ?」
そうです、というと先輩はオッケー、といって先に進んでいく。
他愛のない話をしているうちに自宅が近づいてきて、近所の床屋さんを
通り過ぎたところで私は谷口先輩の服を軽く引っ張った。
「ん、ここでいいの?」
そういって谷口先輩が自転車を止めると、ブレーキの勢いがついて
先輩のお腹に回していた手に少しだけ力が入ってしまった。ごめん
なさい、というと、ずっとそれくらいくっついてくれててよかったん
だけど、と笑いながら先輩は後ろで自転車から降りようとする私に
手を貸した。
「ありがとうございました」
座っていた荷台から立ち上がっても、谷口先輩は私の手を離さない。
「先輩...?」
「お前さ、」
一瞬だけ、先輩が真顔になったような気がした。
「困ったときくらい、もっと頼れよ」
そういうと、先輩は手を離して私の頭を軽く撫でた。