素直になれない私たち
次の日の朝、いつもより早めに準備している私を見て何かを察した
のか、なぜかお母さんがそわそわしているように見えた。お母さんは
たぶん、今日も谷口先輩が迎えに来ると思っているのだ。
「...行ってきます」
「はーい、気を付けてね」
案の定、お母さんは玄関の外までついてこようとしている。別に何も
ないからね、といって玄関のドアを開けると、翔平が自転車に跨って
すでにスタンバイしていた。
「...おはよ」
「うす」
ん、といって手を伸ばす翔平にかばんを渡すと、翔平は私の後方に
目線を向けて軽く会釈をした。そんな翔平を見て私が勢いよく後ろを
振り向くと、閉めたはずのドアがほんの少し開いていて、そこから
お母さんが興味津々、という顔をして覗き込んでいた。
(...お 母 さ ん ! 何 や っ て ん の !)
翔平には見えないように、お母さんに向けて顔で怒りを表現すると
お母さんは慌てて顔を引っ込めた。家に帰ったらまたいろいろ突っ込ま
れるかと思うと頭が痛くなる。
私の家を出発すると翔平はすぐに裏道のほうへ向かった。車があまり
通らないかわりに学校までは少し遠回りになる。一応違反なわけだし、
目立たないほうがいいだろ、と翔平がいう。
裏道とはいっても同じ高校に通う生徒がちらほらと歩いていて、昨日
ほどではないけれどやっぱり通り過ぎたときに『あっ』という顔を
される。そんなことも気にせず、翔平は私を乗せて自転車を走らせた。