素直になれない私たち
4時間目が終わり、いつものように晴夏と机を並べてお弁当を食べて
いると、晴夏のスマホが電源オフになっていることに気付いた。
「サイレントじゃなく電源切ってるの珍しいね」
「あー、うん、ちょっとね」
「何かあった?」
いつもとは違って浮かない様子の晴夏が心配になって話を聞くと、
中3の冬に何度か会ったことがある2歳年上の男から何度もラインが
届いている、とのことだった。最初は挨拶程度の短い言葉だったが、
返事をせずにいるとだんだん無視を責めるような内容になってきた
ため、4時間目が始まる前に電源を切ったという。
「街で見かけたからって、なんで今更って感じ」
仲の良かった友達が当時高校生を好きになって、その人の友人として
晴夏の前に現れたというその男は、数回しか会っていないのに下の
名前で呼んできたり2人で会おうとしたりと、まったくその気がない
晴夏にとっては迷惑でしかなかった。当然すぐにブロックしてそれ
以来会うことはなかったが、昨日の夜から新しく作り直したらしい
アカウントで連絡を取ってきたのだ。
「ねえ、今日はみんなで一緒に帰ろうよ」
「大丈夫だって、心配しないで」
今まであまり晴夏から中学の頃の話を聞いたことはなくて、漠然と
華やかなモテ女子として目立ってたんだろうな、と思っていたけれど、
目立つ故に怖い思いもしてきたのかもしれない。そう考えると心配
せずにはいられなかった。