素直になれない私たち
「手洗ってきて。そこ出て右側の階段上ったところにある踊り場で
待ってるから」
校舎の中に入ると、晴夏はそういって南を玄関脇にある男子トイレに
押し込んだ。しばらくして南は案の定濡れたままの手をぶんぶんと
大きく振って水を切りながら踊り場に現れた。
「もー、これで拭いて」
階段に座って待っていた晴夏がハンカチを差し出す。そのハンカチで
手を拭いて左手の出血が止まっていることを確認すると、晴夏は南を
隣りに座らせた。
「血も止まったし、もう大丈夫だから」
「いいから、手出して」
そういって南の左手を取ると、晴夏は引っかかれて皮がむけている左手
薬指の下あたりに持っていた絆創膏を貼った。
「晴夏は腕大丈夫なのか?アイツにけっこう強く掴まれてただろ」
全然大丈夫、そういって晴夏は両腕をひらひらと揺らして見せた。
「あかりがすげー心配してたぞ」
「うん、明日にでもちゃんと話す」
「そっか。じゃ、俺らもそろそろ帰るか」
そういって立ち上がろうとした南の腕を晴夏が掴んだ。
「ねえ南、」
「ん、どした?」
「どうしてアイツのこと知ってたの?」
すぐに言葉が出てこず、南は一旦晴夏から目をそらした。
後ろめたいことがあるわけではなかったが、おそらく南にとって晴夏に
気づかれたのは計算外だったのかもしれない。
少し間をおいて、南は2年前のことを話し始めた。