素直になれない私たち
ところで、と晴夏が南に話を振った。
「どうやってアイツのこと追い払ったの?私がいうのもアレだけど、
けっこうしつこいヤツだったはずなんだけど」
それまで珍しく優位に話を進めていた南の声のトーンが下がった。
「...それいったらたぶん怒るからいわない」
「そんなこといわれたらなおさら気になるでしょ」
暫く堂々巡りが続いたが、いつものペースに戻った晴夏に南が敵うはずも
なく、小さな声でこう呟いた。
「『晴夏は俺の彼女だから手出すな』っていったら、思いの外意気消沈
していなくなった」
「は?」
「結果オーライってことでもういいじゃん。嘘も方便。はい終わり、
帰るぞ」
逃げるように立ち上がって歩き始める南の後ろ姿を、晴夏は驚きつつも
少し楽し気に見つめていた。そして自分もすぐに立ち上がり、先を歩く
南に追いつくと思いっきり背中を叩いた。
「いて!」
思わず声を上げる南の前に回り込むと、晴夏は一言『ありがと』と
いって微笑み、そのまま横に並んで歩き始めた。
(背中が少し頼もしく見える、なんて私だって絶対いわないんだから)
晴夏にも南に対する新しい感情が生まれていた。