素直になれない私たち

ちょうどそこに翔平が戻ってきて、ほんの少しの間私たちは二人きりになった。


「さっきさ」


ぼそっと、でも私の目を真っすぐに見ながら翔平がいった。


「連絡先、俺聞いてよかったの?」


「...あれ新しいやつ。あの後すぐ変えたから」


「知ってる、始業式の日から繋がらなくなったし」


下を向いてうん、と小さく頷く私を見て、翔平は何を思うのか。


「あかり、あの時俺ー」


下の名前を久しぶりに呼ばれて思わず顔を上げた。

気まずい空気が流れ始めた頃に晴夏と南がドリンクを持って戻って
きたので、私もちょっとお手洗い行ってくる、といって席を立った。


ここ数日、翔平とは『三浦』『水上』と呼び合って学校でも他愛のない
話はできたし、もう大丈夫だと思っていた。
きっと『あの頃』のことを引きずっているのは自分だけだったんだ。
そう思えば、これからは翔平のことも「初めて同じクラスになった人」
として他のクラスメイトと同様に付き合っていけばいい。


そう思っていたのにー


翔平も、まだあの夏に気持ちを残したままなの?


初めてキスをした、あの夏に。


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