素直になれない私たち
「ちなみに、あかりは何か得意種目とかあるの?」
「あーそれは聞いちゃいけない質問だわ」
私が答える前に『まあハードルに突っ込んでる時点でね』と晴夏が遮り、
私の後ろで翔平が笑いを堪えているのを見て、私は思わず翔平を睨みつける。
そんな翔平は走り幅跳びを選んだ。晴夏と同じ理由で、目立たないうちに
終わるから、だそうだ。
「走るところ、ちょっと見たかったな」
独り言のつもりが、その声はしっかり翔平に聞こえていたようで、ムチャ
いうなよ、と小声で翔平はいった。
「野球やめてまだ2年も経ってないんだから、まだ走れるでしょ」
「いきなり走っても足つるからダメ」
ふーん、と物足りない気分の私があれ、そういえば南は?といつもなら
賑やかな場所には必ずいる南の姿が輪の中にないことに気づいた。辺りを
見渡すと一番後ろの席に突っ伏した状態の男が一人。
「何やってんの?南の好きなイベント事が近づいてるっていうのに」
そういうと、横から晴夏に腕を引っ張られた。
「あのね、体育祭の日、コイツの誕生日なの」
「え、そうなんだ。じゃあその後みんなで誕生日会する?っていうか、
なんで誕生日なのにそんな暗いの?」
晴夏が小声で続ける。
「ほら、ファーストキスの平均年齢の件。経験できないまま17歳になる
のがほぼ確だから落ち込んでんの」
「南、大事なのは誰とするかであって、いつするかじゃないんだよ」
「経験済みのお前らには何言われても心に響かねーよ」
我ながらすごく良いこといった、と思ったが、拗らせ男には残念ながら
届かないらしい。せめて借り物競争恒例の『好きな人』枠で可愛い後輩
にでも声を掛けられることを祈っておこう。
そんな波乱の予感がする体育祭まで、あと数日。