素直になれない私たち
上を向くとどこまでも青空が続き、白い雲が流れてくる気配が全くない。
まだ11時ということを考えると、面倒だけどロッカーにジャージの上着を
取りに行く選択肢しかなさそうだ。
「やっぱりジャージ取ってくる」
もうすぐ男子リレーの予選が始まるからそれまでには戻っておいでよ、と
いう晴夏に軽く合図をして、私はみんなの輪を抜けてジャージを取りに
ロッカーへ向かうことにした。
スタンド席を抜けて通路に出て、階段を数段降りたところで中に戻る途中の
翔平とばったり出くわした。そういえば翔平もさっきまで走り幅跳びに参戦
していたはずだ。
「どうだった?幅跳び」
「あー、まあまあ」
この『まあまあ』が1位だったことを私は席に戻ってから知ることになる。
「リレーの予選見ないの?」
「うん、ちょっとジャージの上取ってこようと思って。日差し強くなって
きたから」
予選は勝ち上がるでしょ、と私がいうと、翔平はふーん、といいながら
ちょっと何か考えて、自分が着ているジャージを脱ぐと私の肩にかけた。
「これ持ってて」
「...いいの?」
そういってジャージの袖に腕を通すと、指先が出ないどころか10センチは
余っているであろう袖先を見て、翔平はくるくるとジャージの袖を捲り上げ
ていき、3回折ったところで落ち着いたのを確認するともう片方の袖も同じ
ようにした。
「こんなに小さかったっけ」
翔平に悪気はないことはわかっている。だけどつい条件反射で一瞬睨んで
しまった。あっごめん嘘、と取り繕いながら翔平は私の背中を押してその
ままスタンド席に戻るよう促した。