素直になれない私たち
「あれっ南、何隠してんの?」
決して私のジャージ問題から話を逸らそうとしたわけではない。
翔平の隣りに座っている南が手元を不自然に足の陰に隠していることに
気づいた。
「…俺もちょっと」
そそくさと立ち上がって逃げるようにスタンドから出ていく南の後ろ姿を
私と晴夏は訝しげに見つめながら、何あれ、と顔を見合わせる。そして
手元には2つの小さな紙袋が揺れていた。
「何あの挙動不審な態度」
「ねえ、南って今日誕生日なんだってね」
まっつんが私と晴夏の間にぐいぐいと割って入ってくる。
まっつんによると、どうやら私たちが席を外している間に1年の女子が
南に誕生日プレゼントを持ってきたらしい。それも2人。
南は私たちが思うほどモテないわけではなさそうだ。
「でもなんで気まずそうに隠してたんだろうね、自慢したっておかしく
ないのに」
確かに彼女がほしい、早く誰かとキスしてみたいという割には自分から
積極的に彼女を作ろうとしているようには見えない。そんなこともあって、
後輩の女子たちからは南には好きな人がいるに違いない、と思われている
らしい。
「…ふーん」
このときの晴夏の表情は、まるで彼氏の行動を疑う彼女のようだった。
もちろん、そんなことはいわなかったけど。