素直になれない私たち

「ねえ、もう走れない?」

私は後ろにいた翔平に声を掛けた。え、と驚いた表情をしたのは翔平だけで
なく、後輩の女の子からもらった誕生日プレゼントを置きにロッカーに出向
いて戻ってきたばかりの南も一緒だ。


「え、何お前走れんの」


私たちのやりとりにまわりも少しずつ気づき始める。『そういえば50m走の
タイム計測のとき余力を残して走ってた』とか、『運動神経いいから足も速い
んじゃない』といういいかげんなものまで、気づくとみんな翔平が代わりに
走ることを期待するような雰囲気になっていた。


「よし、じゃあ翔平が近ちゃんの代わりにアンカーな」


「...さっきから勝手に話進んでるけど、俺高校入ってからまともな運動して
ないし」


「あかり、コイツなら大丈夫なんだろ?」


...えーと、大丈夫とはいってないけれども。


「中学の時野球部で一番足速かった...はず」


「オッケー、決まりね。高木、メンバー変更しといて」


いつのまにか南が仕切って翔平が走ることになってしまった。
とはいえきっかけを作ったのは私だ。恐る恐る翔平に視線を向けると、
案の定渋い表情でこっちを見ている。


「...ごめんなさい」


「俺マジで最近まともに走ってねーぞ」


「ですよね」


「アキレス腱切れたらどうしてくれんの」


「...責任とって私が自転車で送り迎えします」


なんで敬語、と笑いながら翔平はさすがにちょっと準備運動してくるわ、
といってサブグラウンドへ向かった。

< 70 / 101 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop