素直になれない私たち
「ねえ、もう走れない?」
私は後ろにいた翔平に声を掛けた。え、と驚いた表情をしたのは翔平だけで
なく、後輩の女の子からもらった誕生日プレゼントを置きにロッカーに出向
いて戻ってきたばかりの南も一緒だ。
「え、何お前走れんの」
私たちのやりとりにまわりも少しずつ気づき始める。『そういえば50m走の
タイム計測のとき余力を残して走ってた』とか、『運動神経いいから足も速い
んじゃない』といういいかげんなものまで、気づくとみんな翔平が代わりに
走ることを期待するような雰囲気になっていた。
「よし、じゃあ翔平が近ちゃんの代わりにアンカーな」
「...さっきから勝手に話進んでるけど、俺高校入ってからまともな運動して
ないし」
「あかり、コイツなら大丈夫なんだろ?」
...えーと、大丈夫とはいってないけれども。
「中学の時野球部で一番足速かった...はず」
「オッケー、決まりね。高木、メンバー変更しといて」
いつのまにか南が仕切って翔平が走ることになってしまった。
とはいえきっかけを作ったのは私だ。恐る恐る翔平に視線を向けると、
案の定渋い表情でこっちを見ている。
「...ごめんなさい」
「俺マジで最近まともに走ってねーぞ」
「ですよね」
「アキレス腱切れたらどうしてくれんの」
「...責任とって私が自転車で送り迎えします」
なんで敬語、と笑いながら翔平はさすがにちょっと準備運動してくるわ、
といってサブグラウンドへ向かった。