素直になれない私たち

「サブグラウンド、行ってくれば?」


近ちゃんの代わりに翔平がリレーの選手に急遽選出され(?)、アップしに
行くといってスタンド席を立ってから15分くらい経過した頃、晴夏が私に
いった。


「気になるんでしょ?こっちは大丈夫だから様子見てきなよ」


自分では気づいてないかもしれないけどさっきからそわそわしてるよ、と
晴夏にいわれ、私はそんなことないよ、といいながら立ち上がった。
いってることとやってることが逆なんだけど、と笑う晴夏をおいて私はサブ
グラウンドへ向かった。


2分ほど離れたところにあるサブグラウンドに着くと、翔平が軽くランニング
しているのが見えた。しかしその手前で数名の女子の姿が視界に入り、私は
足を止め、それ以上グラウンドに近づくのをやめた。どこから情報を得たのか、
E組の水野さんとその友達がすでに覗きに来ていた。


(...やっぱやめとこ)


「あかり?何してんのそんなとこで」


戻ろうとしたところで声を掛けてきたのは谷口先輩だ。


「先輩こそ何してるんですか?」


「俺は実行委員なの。今も雑用やってきたとこ」


えー意外、と私がいうと、ジャンケンで負けたんだよ、と先輩は笑いながら
返した。


「俺午後の借り物競争で真偽判定する係だから、あかりが出るならオマケ
してやるよ。どう?」


「残念、うちのクラスからは確か南が出るはず。私今回は出場免除されて
るから、ほら、コレで」


私がそういって自分の左膝を指差すと、あーそれね、と先輩はまた笑う。


「じゃあ晴夏が待ってるので、戻りますね」


「おー、また後で」



翔平を追ってここまで来たと知られるのがなんとなく恥ずかしくてうまく
ごまかしたつもりだったけど、谷口先輩には通用しなかった。先輩の視線の
先には翔平の姿がはっきりと映っていた。

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