素直になれない私たち

「水上、後は頼んだ」


「...は?」


突然の指名に、我関せずといわんばかりに飲んでいたペットボトルの水を
吹き出しそうになっている翔平にまっつんは間髪入れずに続けた。


「大抵のことは卒なくこなす、スピードもある、何よりネタ枠のカードを
引いたら間違いなく盛り上がる、そんな人水上以外にいない」


「俺リレーにも出るんだぞ、さすがに3つ目はおかしいだろ」


食い下がる翔平の言葉はもう誰にも届いておらず、外野(主に女子)からは
歓声が上がり、ものの数秒で翔平の出場は確定してしまった。絶句している
翔平に近づいて謝る南。私は晴夏がさっき南よりも先に謝っていたことが
気になり、南に肩を貸している晴夏に尋ねた。


「ねえ晴夏、何があったの?南がコケた理由、知ってるんでしょ」


「あー、えっとね、3割くらいは私のせいかも。さっき南にさ」


そこまでいったところで南がわー!と大声を出して間に入ってきて、晴夏の
言葉を遮った。真っ赤な顔をして晴夏に『絶対いうなよ!』という南を見て
一体どんな恥ずかしいことがあったのかとこの時は思ったけれど、後で晴夏
から話を聞いて私も思わず声を上げてしまうことになるとは。


「じゃあ水上、急いで下降りて集合場所に向かって」


憮然とした表情で、でも結局はまっつんとその場の空気に従う翔平に、私は
ドンマイ、と声を掛けた。


「あっねえ、ジャージいる?」


私が翔平から借りて羽織っていたジャージを脱ごうとすると、袖から抜こうと
していた私の手を押さえて首を振った。諦めたようにそのまま着てて、という
と、翔平は苦笑いを浮かべながらスタンド席からグラウンドへと降りて行った。


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