素直になれない私たち
「なんかみんなソワソワしてるよね、特に女子」
まっつんがそういうのも無理はない。出る予定じゃなかった、いやそもそも
出る雰囲気なんて1ミリもない翔平が借り物競争の集合場所に現れたのだ。
周りは当然『翔平がもし【好きな人】のカードを引いたらどうするのか』に
ついて盛り上がっている。特に女子。
「まあでも8分の1の確率でしょ、そんなに上手くいかないって」
晴夏の言葉に軽く頷きながら、私は翔平の姿を目で追っていた。
どこか諦めたような、悟ったような表情を浮かべ、係に促されて自分が出走
する2組目の列に並んでいる。学年ごとに計3組が参加するレース。
男女の比率は半々といったところだろうか。
何事もなく終わればいい、そう思っていた。
まもなくして1組目が出走し、早くも歓声が上がっている。男女合わせて
8名がスタート地点から約10メートルほど先に置かれているカードを選び、
そこに書かれているものを取りに散らばっていく。そんな中、一人だけその
場から動かない1年生男子(けっこうイケメン)に注目が集まる。
「あー彼だね、最初の生贄」
数秒間天を仰いだその男子は、意を決してくるりと向きを変えると1年生が
陣取るスタンドに向かった。その中にいる誰かに声を掛け、大きな歓声が
上がる。しばらくして真っ赤な顔でグラウンドに降りてきた小柄な女子の
手を取ってゴールに向かう1年男子はまるでヒーローのようだった。