素直になれない私たち

「青春だねー、心が洗われるわ」


晴夏の言葉もあまり入ってこない。だって次は2年生の番。
乾いたピストルの音が鳴り響き、翔平がいる2組目が出走した。


「おい谷口、水上出てるぞ」


「あ?」


その頃谷口先輩はゴール地点に設置されているテントの中にいた。
そういえば、実行委員をしている先輩はさっき借り物競争の真偽判定係を
しているといっていた。その場にいた純希先輩が翔平の姿を見つけ、谷口
先輩に知らせていたのだ。

2年生8名がカードを拾い、中身を確認する。誰が例のカードを引き当てる
のか。きっとさっきの1年男子のように足を止める人が出るはずだ、と
思い、みんな息をのんでその光景を見守っていた。


「...あれ?誰がジョーカー引いたの?」


想像していたのとは裏腹に、参加者8名はさっさと各々散らばっていき、
躊躇う様子もない。「好きな人」を誰が引いたのかわからない中で、
翔平が表情ひとつ変えず私たちが陣取るスタンドに近づいてきた。


「三浦」


名前を呼ばれ、一瞬周りが静まりかえり、同時に視線が突き刺さる。


「『席が前後の人』だって」


…一瞬でもドキッとした自分を殴りたい。そんなの南でいいじゃん、
と思ったけど南は今ケガしてるから行けないのね。だから私しかいない
ということか。そういうことね、わかりました。
あからさまにホッとしている女子たちの間をすり抜けて翔平のもとへと
向かい、私たちはゴール目指して走っていった。


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