素直になれない私たち

あっという間にマコちゃんが矢野くんと仲良くなり、その流れに私も
巻き込まれるような形でそれまで接点のなかった野球部の人たちと話す
機会が増えた。その中には水上もいて、1か月も経つと私たちは下の
名前で呼び合うようになっていた。そのことでグラウンドに現れる
「水上ファン」らしき女子からの風当たりが強くなったりもしたけれど、
そんなことも気にならないほど翔平と一緒にいる時間は楽しかった。


当時の翔平は身長が169センチで、よく『あと1センチ!』とかいって
学校でも牛乳を飲んでいたりとか、トマトソースやピザの上に散ってる
程度なら平気なのにブロックトマトは食べられなかったり、翔平に
ついての新しいことが毎日のように上書きされていくのが楽しかった。


期末テストが終わると、中体連の地区大会が本格的に始まった。
勝ち進んで行くにつれて、3年生は優先的に好きな競技を応援しに行ける
ことになっていて、野球部は順調に準決勝まで進んだ。
準決勝の相手は3年連続県大会に出場している強豪校で、わが野球部は
善戦したけど地力の違いで惜しくも準決勝敗退。


翔平たちの夏は終わった。


試合が終わった瞬間、ネクストバッターズサークルにいた翔平の目に少しだけ
涙が浮かんだように見えたけど、すぐに涙を流す仲間のもとに近づいて肩を
抱き、労いの言葉をかけていた。


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