素直になれない私たち
暫くすると、翔平は集団から抜けてグラウンドの外へ移動し、大きな
日陰を作る木の下で顔にタオルをかけて横になっていた。私はその姿を
追って寝ている翔平の頭の近くで静かにしゃがみこんだ。
前髪に手を伸ばしてそっと触れると、翔平はすぐに私の手をつかんだ。
「どうして私だってわかったの?」
顔にタオルをかけたままの翔平が答える。
「きっと来ると思ってたから」
「…思ってたよりずっと速かった。みんなも驚いてたよ」
「ホントは足攣りそうになってさ、途中実はちょっとヤバかった。
やっぱ運動不足だな」
私たちの手は、まだ繋がったまま。
ほんの少し間が空いて、そして。
「あのさ、」
「ん?」
「水上って呼ぶの、やめない?」
そういうと、翔平は顔にかけていたタオルを取ってこっちを見た。
私は小さく頷いた。
「私も、呼んでて気持ち悪かった」
お前がいうなよ、と笑いながら翔平が体を起こした。遠くから翔平を
呼ぶクラスメイトの声が聞こえて、翔平は立ち上がり、繋いだ手を
周りから見えないように体の後ろに隠しながら歩き始めた。
2年ぶりに繋いだ翔平の手は、前よりも大きくて温かかった。