素直になれない私たち
晴夏が南にキスをした、という話を聞いてから私は3、4時間目の授業も
ずっとうわの空で、自分のことじゃないのに変にドキドキしていた。
まさかこの2人がそんなことになっているなんて知る由もない翔平も、
南の様子がなんとなくおかしいとは思っているようで、昼休みにご飯を
食べながら時々挙動不審な南の顔を覗き込んでいた。
「こいつら、何かあった?」
翔平が私の耳元に顔を寄せて尋ねる。こいつ『ら』といっているという
ことは、晴夏と南に何かがあった、というところまでは気づいている
らしい。ただ付き合い始めたとか、そういった具体的な話を晴夏から
聞いたわけでもないし、現時点で私から話せる内容も限られているので、
ひとまず『さあね』と一緒に首をかしげておくことにした。
「ねえ、もしかして翔平と付き合うことにしたの?」
翔平と南が隣りのクラスにいる友達のところに行ったのを確認して、
晴夏にしては小声で、しかし唐突にこういった。
「は?」
動揺しつつも私は小さく首を横に振った。動揺はしているがウソは
ついていない。私はどうしてそう思ったのか晴夏に尋ねた。
「えー、何となくだけど、今までより距離感が近くなってる」
そういわれて、2日前の体育祭を思い出す。リレーの後、短い時間
だったけど翔平の心に近づいて本音を言えたあの瞬間。そして、
2年ぶりに繋いだ大きな手。無意識ながら距離感を縮めていたのだ
ろうか。
恐るべし恋愛番長の洞察力。