素直になれない私たち

変な空気のまま6時間目の授業を終えると、晴夏がすぐに『帰ろー』
と声を掛けてきた。放課後どこに行くとか決めているわけではない
けれど、なんとなく阿吽の呼吸?で南と翔平も一緒に動こうとして
いるのがわかる。


「トイレ行ってくる、ちょっと待ってて」


晴夏にそう伝えると、私は小走りで教室を出た。用を済ませて軽く
リップクリームを塗り、また教室に戻って後ろのドアから入ろうと
したそのとき、見たことのない数名の男子に声を掛けられた。


「あのー、水上くんいますか」


教室の中をのぞくと晴夏と一緒に翔平も私を待っていた。その姿を
見てあーいますよ、と返すと、彼らは翔平に話があるので呼んで
ほしい、と私に頼んできた。何だろうと思いつつも、まだ大半の
クラスメイトが残る教室に向かって私にしては大きな声で『彼』の
名前を呼んだ。


「翔平!」


その声にいち早く反応したのは翔平ではなく教室の中にいたクラス
メイトたちだ。私が水上ではなく『翔平』と下の名前を呼んだことに
驚いたようで、一瞬で空気が変わってしまった。
そんな空気を無視して立ち上がった翔平に『呼ばれてるよ』と伝える
と、翔平は小さく首をかしげながら教室の外に出た。


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