素直になれない私たち
「...なんか私変なこといった?」
多くの視線(特に女子)がつき刺さる中、私は教室の中に入り晴夏の
もとに戻った。いい傾向じゃん、とすまし顔で答える晴夏に私は軽く
体当たりする。
「晴夏だってずっと前から翔平って呼んでるじゃん」
「はいはいそうですね」
なんで私が呼ぶと変な感じになるの、とブツブツいっていると、
翔平が戻ってきた。なんだったの、と晴夏が尋ねると翔平は表情を
変えずに答えた。
「陸上部の勧誘」
「え、体育祭のリレー見てきたってこと?どうすんの」
「断った」
今更部活とか普通に無理だろ、と翔平はいう。まあ確かにそうなん
だけど、どこかで走る姿を見てみたかったと思う自分もいて、そんな
複雑な感情がきっと顔に出ていたのだろう。私の顔を見て翔平がもう
一度『無理』といって背中を押し、帰宅を促した。
「こんな展開になってんの自分のせいだってわかってないだろ」
「人のせいにしないでよ、私は走れる?って聞いただけだもん。
その後は南が話を大きくしたんだからね」
「そもそもあかりが俺にまだ走れるか、なんて聞いたのが悪い」
教室を出るまで私と翔平の押し問答は続いた。駅に向かう途中で
南と翔平、私と晴夏という並びになり、晴夏が前を歩く2人には
聞こえないくらいの声で私にいった。
「翔平が『あかり』って呼ぶの初めて聞いた」
中3の頃の2人がこんな感じだったのかと思うと、なんかエモいね。
冷やかされているのかと思ったら、晴夏の表情がいつもより柔らかく
て、私も少しだけ口角を上げた。