素直になれない私たち
期末テストを何とか乗り越えた7月初旬、放課後の教室では珍しく
男子が廊下側の席に数名集まって何やら盛り上がっていた。
『合コン』や『女子高』というキーワードが聞こえてくる。
晴夏が南に視線で『偵察してこい』と指令を送り、はいはい、と
渋々彼らの輪に加わりに行く。
しばらくして南が戻ってくると、こういうことらしい。
同じクラスの細川くんという男子が近くの女子高に通う女の子の
ことを好きになり、どうすれば彼女と知り合いになれるのかを
みんなに相談しているというのだ。
「白藤女子には知り合いいないなー」
そういう晴夏に私も頷く。細川くんには幸せになってほしいけど
あいにく何の力にもなれそうにない。同じクラスの男子の恋バナに
など1ミリも興味なさそうな翔平が退屈そうに待っていたので、私
たちも帰る支度を整えていると、職員室から戻ってきたまっつんが
彼らの会話を聞いて立ち止まる。
「白藤?中学の同級生が通ってるけど」
神降臨、とばかりに細川くんを始めとした男子たちが色めき立つ。
名前しか知らないという彼女の情報をまっつんが白藤の友達に聞いて
くれることになり、細川くんの恋の行方はまっつんに託された。
「責任重大だね」
「こういうの、嫌いじゃないよ」
そういうと、まっつんは手元のスマホで文字を打ち始めた。
細川くん、果報は寝て待て。