素直になれない私たち

そして同じ頃、南と翔平はなぜか音楽室にいた。


「...なんで音楽室で昼飯食うの」


「まあまあ、静かで人目につかない場所っていうとここか理科室しか
思いつかなくてさ。でも理科室は鍵がかかってたんでこっちってこと
で」


2時間目が終わった頃にはすでに他のクラスへも噂が流れていて、
翔平のファンと思われる子や野次馬たちがやってきては誰かに話しか
けて事実確認(?)をして帰っていく。そんな様子にウンザリしていた
翔平を解放してやりたいという思いで、南は昼休みに音楽室へ翔平を
連れて行った。南なりの気遣いだ。


「なあ、ひとつ聞いていい?」


購買で買ってきたカツサンドを頬張りながら、南が尋ねる。


「あかりとはまだ付き合ってないの?」


翔平は飲んでいたコーヒー牛乳を吹き出しそうになった。
明らかに動揺している翔平を気にすることもなく南は続ける。


「お前があかりのこと下の名前で呼び始めた時はとうとうきたか!
と思ったのにさ、何なんだよあの白藤の女。事実関係どうなって
んの」


「...思い出したくもない」


そう呟きながらも、翔平は南に中3の夏休み明けの出来事を話した。
告白を断ったら急に抱きつかれたこと、もちろんそれ以降の接点は
なく名前も憶えてないこと。そして、それが自分にとって初めての
キスではなかったことも。

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