婚約してから十年、私に興味が無さそうなので婚約の解消を申し出たら殿下に泣かれてしまいました
「私は何もしておりません。週末屋敷に帰るとサムさんの家のパン、ダニエルさんの家の乳製品を美味しくいただきました。シェフに聞いたのですけれど、とても手が掛かる作業だと聞きました。ですから美味しいのですわね。両親も気に入っているようです」
パンは今まで屋敷で焼いていた。今でも焼いているけれど、サムさんの家のパン屋さんでしか出せない味わいがあるのだそうです。お母様はクロワッサンをたいそう気に入っていました。
ダニエルさんの家のミルクは濃厚で甘くて美味しいですし、バターはシェフが気に入ってわざわざ買いに行くこともあるそうです。
チーズも然りで丁寧に作っているから味が濃いとシェフが言っていましたわ。お父様もワインを飲む際にダニエルさんの家のチーズをおつまみにしているのだそうですわ。
手が掛かるためあまり多くは作れないそうで、シェフは年間契約をしたとのことでしたわ!
「屋敷の皆んなが言っているのだけど……その、以前使っていたものよりも美味しくて、しかもコストパフォーマンスも良いそうなの」
損はしていないのかしら? 正直言って前の取引をしていたところのモノとは違うもの。
「貴族様向けに作ってないので……それと、間に業者が入っていないことも関係していると思います。セリーナ様の家とは直接取引をしていると聞きました。味を認めてくださってありがとうございます」
ダニエルさんが言いました。間に業者が入ると急に料金が跳ね上がるのは当然。
「手広くされるおつもりはないの? 美味しいですからもっと沢山の方の口に入れたいと思いませんの?」
「はい。それをしてしまうと、味が変わってしまいます。ジィちゃんはそれを許しませんし、僕もジィちゃんの意見に賛成です。目の届く範囲で納得のいくものを自信を持って今まで通り作りたいと思います」