婚約してから十年、私に興味が無さそうなので婚約の解消を申し出たら殿下に泣かれてしまいました
「え! 呼び捨てで構いません! 様だなんておよしください!」

「それではサムさんと呼ばせてください」

 セリーナは人を呼び捨てにする様なことはしない。平民であっても同じ学園で過ごす仲間だから。


「はい。えっと僕の家は王都の街でパン屋を営んでいます。人気が出てきて今は支店が出来ています」


「まぁ。パン屋さんを? 素晴らしいですわね」

「素晴らしいですか? それはどうしてでしょう? 貴族の方から見たら取るに足りない仕事でしょうに」


 不思議そうにセリーナを見るサム。貴族のことはよく知らないがたくさんの使用人が住んでいるというイメージから単なるパン屋が素晴らしいという意味が分からない。


「不思議な事を仰いますのね。食事を取ることは生きていくためには必要不可欠ですわ。それにパンは主食ですもの。それに美味しくないと支店が持てませんでしょう?」

「はい。そう言っていただけて光栄です」


 その後もダニエルさんとサムさんに市民の暮らしを聞いて有意義に過ごしました。


「お話を聞かせてくださってありがとうございました。とても為になりました。どうか私のこともセリーナとお呼びくださいね」


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