私の恋人と執事はいつもいがみ合っている
「お待たせしました。
お嬢様、どうぞ?」
運転席からスマートに降り、後部座席のドアを開けた。
優しく微笑み、さりげなく星那の腰を抱いた。

「ありがとう!
ちょっと待って。
あーくん、今言いかけたでしょ?」

「………後からね。とりあえず、早く行かねぇと遅れる」
見上げる星那の頭をポンポンと撫で、河冨から奪うように星那を引き寄せた。
そして、車内に乗せた。

「星那、ちょっと待ってて」
と声をかけ、ドアを一度閉めた蒼志。
河冨に向き直った。

「蒼志様?」

「さっきお前言ったよな?」

「は?」

「“恋人の分際”って」

「はい」

「だったら……
“婚約者”なら、文句ねぇよな?」

「………」

「頭の良い、お前ならわかってると思うが……」

「………」


「来月のクリスマス、星那にプロポーズしようと思ってっから!」
口をつぐんでしまった河冨に一方的に伝え、再度後部座席のドアを開けて星那の横に乗り込んだ。


取り残されたような河冨。
ギュッと目を瞑り、空を見上げた。


あぁ……恐れていたことが起ころうとしている━━━━

星那が、蒼志のプロポーズを断るわけがない。

もちろん星那が幸せなら、二人の仲を引き裂くつもりない。


しかし、傍にいたい━━━━━━

どんな形でも……ずっと、星那の傍に。


「どうにかして、傍にいられる方法を考えねぇと……」
河冨はポツリと呟き、運転席へ乗り込んだ。


運転しながら、バックミラーで後部座席を見る。
蒼志と星那が、手を繋ぎ仲良く話している。

本当にお似合いのカップルそのものだ。

星那の話を微笑ましく聞きながら、時折相づちをうっている蒼志。

誰が見ても、相思相愛カップルに見える二人。

星那への狂おしい感情がある河冨にとって、羨ましさを飛び越えて憎くすらある程に。


「星那、今日の約束覚えてる?」
「へ?約束?」

「えー!覚えてねぇのー?」
「え?え?ご、ごめんね!
待って!思い出すから!」
斜め上を見上げて、考え込む星那。

そんな星那を愛おしく見つめて、蒼志が星那の耳を触りながら言った。
「ヒントは、耳!」

「耳?耳…耳…
━━━━━━あ!ピアス!一緒に買いに行く約束だ!」
「正解!」

嬉しそうに笑う星那に、またもや微笑ましく見つめる蒼志だった。
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