私の恋人と執事はいつもいがみ合っている
スマートに河冨が出てきて、星那に微笑んだ。
「お嬢様、お待たせしました。
では、参りましょう!」

河冨の視線には、星那“しか”入っていない。

後部座席のドアを開けようとする。

「━━━━━こんちは!」
そんな河冨に、卓士が声をかけた。

「こんにちは」
感情のない表情(かお)で、卓士に向き直った。

「俺━━━━━」
「あの!!」

「え?」

「お嬢様を先にお車にお乗せしたいのですが?
こんな寒いお外でお待たせるわけにはいきませんので」

卓士の声に被せるように、淡々と言い放った河冨。
その表情は、とても冷めきっている。

「あ、はい」

すると、パッと表情や雰囲気が明るくなり星那に微笑んだ河冨。
「お嬢様、お寒い中お待たせして申し訳ありません!
どうぞ?」
後部座席のドアを開け、星那の腰を抱いた。

「あ、待って!先にご紹介を……」
「お嬢様。
それは、必要ありません。
芽郁さんにご紹介していただきます。
それに、男性が来るようなことがあれば、連絡するようお伝えしたはずですよ?」

「あ、ごめんね!
タイミングがなくて……」

「はい。わかってますよ?
とりあえず、お車にお乗りください。
ほら、もう…頬が冷えてきてる……
風邪を引くようなことがあれば、旦那様や奥様、蒼志様にまで叱られます!」
星那の頬に触れ、微笑む。

「うん、わかった。
芽郁ちゃん、瀬渡さん、また!
お気をつけて!」
「うん!星那、また連絡するね!」

小さく手を振り車に乗り込んだ。
ドアを閉めた河冨。

芽郁と卓士に向き直った。
「お待たせしました。
久瀬川 星那様に仕えさせていただいています、河冨と申します。
それで、僕に何か?
お嬢様をお待たせしているので、手短にお願いします」

まるで別人のように、冷えきった雰囲気と言葉、声色。
卓士は、そんな河冨に圧倒されてしまう。

「いや、もう…いいです……」
急に小さくなったように卓士は、たじろぎ言った。

「そうですか。
では、失礼しました。
芽郁さんも、お気をつけて」
「はい」
丁寧に頭を下げた、河冨。

顔を上げ、芽郁を見据えた。
「あぁ、そうだ。
今後は、こちらの方とお嬢様を会わせる時は事前にご報告願います。
━━━━━━━僕はまだ……貴女のことを完全に許してませんので、悪しからず」


河冨の視線がより強く、芽郁に刺さったのだった。
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