私の恋人と執事はいつもいがみ合っている
“星那が嫉妬してる”

蒼志は、そう思うだけでゾクゾクしていた。


「星那?」
『………』

ほら、星那。言って?

「星那、どうした?」
『………』

“行かないで”って。

「星那ー?」
『………』

“私以外の女と話さないで”って。


嫉妬して、俺を安心させろよ………!


『………わかっ…た。じゃあ…また…明日ね。
おやすみなさい…』

「え?ほし━━━━━」

消え入りそうな声で、絞り出すように言った星那。
通話を切ったのだった。


嫉妬させるように仕向けたのは自分なのに、蒼志は一気に気分が落ちていた。

そしてスマホを持ったまま、しばらく固まっていた。



一方の星那も、スマホを握りしめ落ち込んだように肩を落としていた。
「失礼いたします。
お嬢様、紅茶をお淹れしましたよ?」

ノックの音がして、星那の部屋に河冨が入ってくる。

「………あ、うん…」

「……??
お嬢様?どうしました?」

「ううん」

「………そうですか。
紅茶、お淹れしたのでどうぞ?」

「………ありがとう」
ゆっくり、カップを手に取る。

先程の電話口での女性の声が、頭の中にこびりついていた。
「………っ…」

苦しい━━━━━

どうしてこんな小さなことで、嫉妬してしまうのだろう。
頭ではわかっているのに、言葉にならない嫉妬心で胸が押し潰されそうだ。

身体が震えてきて、星那の手からカップが滑り落ちた。
「━━━━━っ…熱っ…!!?」

「お嬢様!!?」
スカートの上にカップが落ちて、膝を火傷する。

でも星那は、痛みを感じない。
それよりもよっぽど、胸の方が苦しく痛かった。

慌てて拭き取り冷やそうとする河冨をよそに、星那はボーッとしていた。

「お嬢様、お薬を塗っておきましょうね。
あと、着替えた方がよろしいかと……」
「うん」

「このくらいなら、傷が残ったりしないので安心してくださいね!」

「うん。
あとは、自分でするから下がって」

「はい…かしこまりました。
では、何かありましたら、いつでも連絡くださいね」
河冨が丁寧に頭を下げ、部屋を出ていく。

部屋に一人になり、星那は服を脱いだ。
下着姿になり、姿見で自身を見つめる。

所々に蒼志がつけたキスマークがついている。

「大丈夫……大丈夫……
あーくんはただ、社員の方々とお話をしてるだけ」


星那は、自分自身に言い聞かせていた。
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