私の恋人と執事はいつもいがみ合っている
「━━━━んん…」

星那の息が、漏れる。
その声で、ハッとして慌てて離れた河冨。

頭を振り、必死に払拭する。

俺としたことが━━━━━
つい、欲に負けてしまった。


「………ん…あーくん…」

星那が、ポツリと寝言を言った。


「━━━━━…っ…!?」


“嫉妬心は、それを越えると不思議と何も感じなくなるんですよ”

よくもまぁ、そんなこと言えたな………


本当は毎回、蒼志に対して嫉妬というどす黒い感情で、もがき苦しんでいるクセに……!!

ただ、それを見せないように取り繕っているだけ。



河冨は、髪の毛をクシャッと掴みかき上げた。

そして星那を抱き上げ、ベッドに運んだ。
ゆっくり下ろして、寝かせる。

優しく頭を撫でて、額にキスを落とした。
「お嬢様…いい夢を………」


そして、静かに部屋を後にした。



次の日の朝━━━━━━

「はぁー」
星那は朝からため息ばかりついていた。

「星那、どうした?」
父親が、心配そうに顔を覗く。

「え?」

「ため息ばかりついてるわよ?」
と、母親。

「蒼志と喧嘩でもしたのか?」

「え!?」

「「フッ…」」
星那がわかりやすく動揺した為、両親が笑う。

「でも、意外ね!」
「そうだな!」

「え?」

「二人は、喧嘩なんかしないと思ってたから」

「そうかな?」
(まぁ、別に“喧嘩”したわけじゃないけど……)

「気を遣い合ってるからな。二人は」

「え……」

「互いに“嫌われたくない”って感情が邪魔をして、心の奥底にある黒い感情をさらけ出せない。
本当に言いたいことを、押し殺している」


そうかもしれない━━━━━━

昨晩の電話も“行かないで”と言えなかったから。
こんなワガママを言って“嫌われたくない”と思ったからだ。


朝食後、大学に行く準備をする。
いつもの時間になって、蒼志が迎えに来た。

いつも通り、いつも通り……
そう、心に言い聞かせながら玄関に向かう。

「━━━━━おはよ、星那」
少し遠慮がちに、蒼志が微笑んで待っていた。

思わず、躊躇する星那。

いつもなら、両手を広げて待っている蒼志。
今日は、微笑んでいるだけだから。


星那は、ゆっくり蒼志の元に向かうのだった。
(いつもは、パタパタと駆けていく)
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