私の恋人と執事はいつもいがみ合っている
講義が終わり、帰る為に河冨の待つ門に向かう蒼志と星那。

「あーくん」
「ん?」

「河冨にお礼言おうね!」
「は?」
突然の星那の言葉に、目が点になる。

「河冨のおかげで、私達本音を言い合えたでしょ?」
「だからって、なんで!?」

「河冨があんな風に言ってくれなかったら、私達遠慮し合って何も言い合えなかったよ?」

「まぁ、そうだけどよ……」


門に向かうと、河冨がいつものように規則正しく立って待っていた。

星那を認めると、嬉しそうに微笑んだ。

「お嬢様、お帰りなさいませ!」

星那も微笑み、手を繋いでいた蒼志の手を引っ張るようにして河冨に向かって駆け出した。
「ちょっ…星那!?」

微笑み駆けてくる星那に、河冨は言葉にできない驚喜を感じる。

いつも蒼志様は、こんな幸せな気持ちをあじわっているのかと。

蒼志が両手を広げ待つ気持ちが、とてもよくわかるのだ。

「河冨!」
河冨の前で止まり、微笑み見上げる星那。

「はい」

「ありがとう!」

「え?」

「河冨のおかげで、あーくんと本音を言い合えたの!
だから、ありがとう!」

「フフ…そうですか!
良かったです!」
意味がわかり、河冨も微笑んだ。

「フフ…
あーくんも!
ほら、河冨にお礼言わないとだよ!」
蒼志を誘導するように、河冨の前に出した。

「………あり…がと…」
視線をそらし、呟くように言った蒼志。

そんな蒼志の態度に、河冨はフッ…と笑った。

「………なんだよ…!?」
今度は、怪訝そうに言う。

「いえ…(笑)
どういたしまして」
クスクス笑う、河冨。

「…………だからぁ!なんなんだよ!?」

「いや…蒼志様、可愛いなと思って(笑)」

「はぁ!!?」

「“なんで河冨なんかに礼を言わないとならねぇんだよ!?”って思ってますよね?」

「は?」

「でも言わないとお嬢様に怒られるし、確かに僕のおかげでお嬢様と言い合えたから、しかたなくおっしゃったんだろうなぁと思って(笑)」

「なっ…!!?」

「フッ…図星、ですか?(笑)」

「う、うるせぇよ!!////」

「フフ…でも、本当に良かったです!」

「は?」

「今朝の蒼志様は、蒼志様ではなかったから」

「え?」

「蒼志様は、僕にいつも突っかかってくる位が、貴方らしいです。
でないと、張り合いがない」

「河冨…」

微笑む河冨に、蒼志も微笑む。
そしてそんな二人の姿に、星那も嬉しそうに笑うのだった。
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