私の恋人と執事はいつもいがみ合っている
駅まで歩く。
「今日は、ありがとう」
「ん」

「………あの、蒼くん」
「なんだよ」

「もう少し……もう少しだけ…付き合って?」

「………」
咲恵が蒼志の服を少し掴み、見上げている。

咲恵の服を掴む姿と、上目遣い。


なぜだろう━━━━━━

何も感じない。
本当に、何も……

これが星那なら、今頃抱き締めているだろう。
ドキドキして、抱き締めた腕を離せないだろう。

もしかしたら、そのまま……キスをしてしまうかもしれない。


“星那に会いたい……無性に……”

蒼志は、そんな想いに支配されていた。



「…………蒼くん?」

「約束」

「え?」

「約束したろ?
飯食うだけっつったじゃん。
俺は、帰る。
━━━━ん。タクシー代」

五千円札を渡し、去ろうとする。

「ま、待って!!」
蒼志の腕を掴む、咲恵。


「━━━━━━しつけぇなぁ!!!」
その瞬間━━━━凄い力で、蒼志は咲恵を振り払った。

その勢いで、咲恵は地面に尻もちをつく。

周りの人々が“なんだ、なんだ”と見ている。

「あ、お…く…」
咲恵も、信じられない思いで見上げた。


「飯だけの約束だろ!?
俺、しつこい奴大っっ嫌いだから!
ほんとは心の底から嫌なのに、付き合ってやったじゃん!
なんで、気持ちよく去れねぇの?
未練タラタラなとこも、ウザくて堪らない」

「………」

「あーもう!!
言わないでやろうと思ってたが、今日のことも大騎に協力させたんだろ?」

「え………」

「大騎は、高校ん時お前に惚れてたからな。
それに漬け込んで、頼み込んだんだろ?」

「知って…た…の?」

「大騎は、ドタキャンなんか普段しない奴だから。
待ち合わせも、誰よりも早く来て待ってるような奴だし。
なんかあるとは思ってた。
お前が、声をかけてきた瞬間……なんとなく察してた」

「じゃあ、なんで食事……」

「俺だって、お前には負い目が少しあったから。
好きでもないのに、お前の告白を受け入れた。
なのに結局星那のことばっかで、あんまもたなかったし。
それこそお前に、中途半端なことしたから」

「………そうだったんだ…」
< 67 / 81 >

この作品をシェア

pagetop