私の恋人と執事はいつもいがみ合っている
蒼志は不機嫌で、ずっと黙ったまま窓の外を見ていた。
講義室内がピリピリしていて、シーンと静まりかえっていた。

足は机の上に投げ出すように置いて、ポケットに手を入れ、背もたれにもたれかかっていた。


さすがに講義が始まると足は下ろしていたが、雰囲気はどす黒く、まるで闇の中にいるように落ちていた。

「スゲー、草壁一人のオーラだけでこの講義室がピリピリすんだもんなぁ…」
「だな……」
「存在感あるもんなぁー」

生徒達が、口々に小声で話している。


講義後、蒼志は一人大学を出ようとしてた。
「大騎」

「ん?」
「今日のこの後の講義、サボるから。
俺と星那の分、上手くやっといてよ」

「ん」
「これだけはちゃんと出ておかねぇといけねぇから出たけど、後の講義は大丈夫だし」

「そうだな!」

「なんだかよくわかんないけど、姫様んとこ行くの?」

智久の言葉に頷き、後ろ手に手を振り去ったのだった。


駅に歩いて向かいながら、スマホを操作する。
【今からそっち行っていい?】

なかなか既読にならない。

「何やってんだよ!!?」
数分のことなのに、苛立ってくる。

星那はおっとりしているので、基本的に返信もゆっくりだ。
いつも河冨がついているのもあり、スマホをあまり気にしない。
SNSもしていないので、今時スマホがないと不安になるなんてこともない。
その為、連絡に気づくのが遅い。

それを十分にわかっているので、いつなら余裕で待つことができる。

でも今日は苛立ちばかり膨らみ、たった数分でさえも待っていられない。

星那に電話をかけた。

繋がらない………

今度は、久瀬川邸の固定電話にかける。
『はい。久瀬川でございます』

家政婦が電話に出た。
「俺、蒼志」

『蒼志様!こんにちは。どうされました?』

「星那呼んで」

『はい。かしこまりました!
少々、お待ちください!』
保留音が鳴りだす。

しばらくして、また家政婦が電話に出た。
『お待たせして申し訳ありません、蒼志様。
星那お嬢様は、ただいまお昼寝をされているようです。
申し訳ありませんが、起きましたら連絡していただくようにお伝えしますので……』

「わかった。
ちなみにさ。
昼寝は“どこで”寝てんの?」

『は?お嬢様のお部屋ですが………』

「だよな。
まさか、河冨と一緒なんてことないよな?」

『まさか!!?
あり得ませんわ!』

「ん。わかった。
今から俺、そっち行くから!」

そう言って、通話を切ったのだった。
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